統計問題とアベノミクス  (第199回)

 ときどき念のため書いておりますが、私は法律家ではありませんし、どちらかというと政治にはあまり興味がないほうだと思います。それでも近年、報道やネットから入って来る情報がキナ臭くなっており、有権者の責務として最低限のことは知っていなければならないと思い勉強中です。

 ブログという形式にしているのは、不特定多数のお方に公開する以上、とんでもない間違いは書けないので慎重になるという利点を感じていることと、ごくまれにですが間違いを指摘して下さる方々もいるため有難い。もう一つ、書きながら考えるタイプであるらしい。そのためか長文になります。


 テレビは殆ど全く見ませんが、朝7時のNHKニュ―スだけは、子供のころから朝食時に観る習慣がついて半世紀。先日の同番組で、総理大臣がいま騒動になっている統計問題とアベノミクスは全然、関係のない話であると語ったという報道ありました。現時点ではネットにも載っています。
www.nhk.or.jp

 リンク切れになると困るので、統計に関連する後半だけ転載します(青字)。日付は2019年2月9日。

自民党の全国幹事長会議が開かれ、安倍総理大臣は、厚生労働省の統計不正問題で信頼の回復に全力を尽くす考えを強調したうえで、統一地方選挙参議院選挙での勝利に向けて結束を呼びかけました。

この中で安倍総理大臣は、厚生労働省の統計不正問題について「長年にわたって不正な調査が行われ、見抜けなかった責任を痛感している。統計に対する信頼を回復するため徹底した検証を行い、再発防止に全力を尽くしていく」と述べました。

一方で、「この問題とアベノミクスは全然、関係のない話だ」と述べ、野党側の批判に反論しました。


 ネットをみると早速、賛否両論ありますが、私はあのとき直観的に、「全然関係ないことはないだろう」と思いましたので整理を試みます。まず第一に、事の発端となった「毎月勤労統計調査」ですが、ときどき自分も仕事に使っているため、他人ごとではありませんから、当初より関心を持ち、成り行きを見続けております。

 仕事で使うと言っても、エコノミストのように判断材料の一つとして重視する方もいるようですが、私の場合は人事関係の個人事業なので、毎月使うのではなく、「最近こんな傾向ですよ」という感じで、お客さんに伝えたり、事業のサイトで年何回かアップする程度。それでも信用に関わります。


 毎月勤労統計調査は、後に少し詳しく触れますが、重要な労働経済の統計だと思うからこそ、毎月見て来たし、話題にもしている訳です。それを行政府の長に、アベノミクスと全く関係ないと言われては面食らいます。GDPの算出に使っているという説明が、或るエコノミストのサイトにありますが本当ですか。

 この統計は、そもそもどんなものなのか。私が月々見ているのは、厚生労働省のプレス・リリースです。率先して報道陣に公開している訳ですから、需要のある情報だと思います。しかも、毎月結果を集計し、速報しているのですから、最新情報が必要とされているはずです。現時点の最新版は以下のとおり。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/30/3001p/dl/houdou3001p.pdf


 ここでは大項目を拾うだけで十分です。三つあって「賃金(一人当たり)」、「労働時間(一人当たり)」、「雇用」です。何とかミクスという表現は、レーガンのころから聞くようになった覚えがありますが、強力な経済政策という理解です。

 経済政策はどんな政権でもやるのですから、わざわざ固有名詞を付けて吹聴する以上、「強力」であるはずです。アベノミクスは、現政権の重要な政権公約の一つ(確か最優先課題とも言っていた)であり、その目的は今なおデフレ脱却のはずです。長いこと言い続けていますから、まだ脱却していません。


 そこで、内閣府が出している「データで見るアベノミクス」の最新版(2019年1月版)を拝見します。いま上記の統計に限らず、各種公的統計の「データ」そのものが疑念を呼んでいる矢先ではありますが、致し方ありません。
https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/abenomics/assets/images/Abenomics_pamph.pdf

 「雇用」と「賃金」が出てくるのですが、それでも毎月勤労統計調査の不正問題とは、全く関係ないのですか。二点補足すると、労働法の一斉改正である「働き方改革」も当然アベノミクスの一環との理解ですが、残る一つの大項目「労働時間」が、そちらの眼目になっているのは周知のとおり。


 まだ法改正の途上なので、データが出ないか。そういえば、裁量労働制の統計データでも、しくじったばかりでした。もう一つ、「不正」というのは間違いではありませんが、聞くところ統計法令に違反しているそうですから、正しくは「法令違反」でしょう。予算案を作り直したほどですから、証拠と自覚はあるはずです。

 こうした不祥事の連続多発について、議員から「行政を厳しく監視するのは政治家の責任だ」といった声が上がっているようですが、まずは行政の最高機関である内閣の責任です。閣僚が官僚をなじるのは、トラブルを起こした会社の社長が「課長を叱っておきました」というのに等しい。


 それはそれで組織の内部で行うべきこととしては当たり前のことですが、外部に対する中間報告にさえなっていません。ここ最近、データやら書類やらの、隠蔽、書き換え、間違いが、政府内に余りに多い。民間人がそれをやると怒るくせに。

 数年前、EUの高官が「情報公開は民主主義の命だ」という趣旨のことを言っていました。なかなか欧州人もいいことを言うものです。われわれは直接、公権力の情報に触れることはできませんから、投票するにあたり、最低限の判断材料として不可欠です。


 この不正とアベノミクスの関係の有無について、上記のようにその評価にも関わりますし、その評価結果に基づき立案・実行されるであろう、将来にむけた経済政策にも関わります。先述の言い方だと、毎月勤労統計の調査結果は、上記アベノミクスのデータに反映されていないから関係ないという逃げ道しかないように感じます。

 それならば、その範囲で理屈は立ちますが、逆に、それではなぜ、毎月勤労統計をやるのかという質問に答えられるだろうか。税金を投入しているだけでなく、質問する側も、答える企業側も手間暇かけて、毎月やっている訳です。他に有効な統計をとっているのなら、止めた方がいいのではないですか。紛らわしい。


 でも報道によると、毎月勤労統計調は総務省が所管している「統計法」に規定された、「基幹統計」に含まれている重要なもので、その法定手続きに従っていなかったから問題になっています。

 まずはその「統計法」です。国勢調査や基幹統計の定めがあります。手続きも載っている。そして第八条に、そのリストの作成と公表の義務が定められております。
統計法: http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=419AC0000000053#Eelaws.e-gov.go.jp
基幹統計のリスト(総務省ウェブサイト): www.soumu.go.jp


 何を言っても舌を噛みそうであります。総理は森羅万象のご担当だそうですので、お忙しいとは思いますが。ちなみに私は内閣総理大臣が、立法府と司法府の担当者だとは思っておりません。見解の相違でありましょうか。

 さて、ここは憲法を考えるサイトですから、経済政策に関連して、一部再掲となりますが最後に自民党憲法改正草案を参照します。今回は経済という言葉が出てくる前文の改正案から、当該箇所の抜粋です。

 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。


 途中に挟まれている「美しい国土と自然環境を守りつつ」(環境問題への配慮)、「教育や科学技術を振興し」(たぶん手段)を外して、目的なのか理念なのか現状説明なのか分からない文章ですが、根幹は「我々は、自由と規律を重んじ」、「活力ある経済活動を通じて国を成長させる」と解しています。

 これは、復習しますと「『憲法改正』の真実」樋口陽一小林節)で両先生が指摘していたとおり、新自由主義のことです。資本主義経済における経済活動の自由というのは、文字通り「資本家」が自由にできる世界です。


 私見ですが、一例を挙げます。インサイダー情報は、そのような言葉がなかった私の若いころ、株屋さんたちの重要な営業手段でした(証券会社のOBに確認済み)。ところが証券取引所に外国資本の占める割合が増え、内情を知るど素人の日本人が儲けるのは「ずるい」ので、そういう取引を禁止しました。

 自由の女神が象徴する「リバティ」とは、少し違うようです。公民権運動が叫んだ「フリーダム」とも違うようです。誰に対する「自由」を重んじ、他方で誰に対する「規律」を重んじるのか、ここは考えどころです。たとえ訊いても、不自由民主党は答えないでしょうから。


(おわり)






冬きたりなば春どおからじ  (2019年1月26日撮影)

























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