参院選  (第202回)

もう次の週末に参院選の投票日が迫っている。今回ここで私が言いたいことは、生前の菅原文太東日本大震災のあとに、何度も語っていた言葉を借りるとすれば、若い奴は選挙に行けという趣旨です。若い奴の皆さまにおかれては、千と千尋の釜爺の声と言った方が分かりやすいかもしれん。

もちろん若くなくても、選挙権があるならば、投票に行かねばならぬ。選挙権といい国民主権といい、「権」という言葉が付いているので、権利としか考えていないとしたら大間違いだ。投票しないなら、人生が上手くいかなくても世の中のせいにしてはいけない。黙っているしかない。なお、親権も同様で、子育ての義務を一義的に一人で背負うものなのだから、親権を奪うとかいうような表現は下劣です。


うちの親は取り立てて子が自慢できるような長所はなかったように思うが(育ててもらった恩への感謝は、自慢話とはちがう)、一つだけ、今でも覚えているのが投票用紙を大事にしていたことだ。戦前、日本の女性には選挙権がなかった。そして、酷い目に遭った人が大勢いた。戦死者だけが慰霊や顕彰をすべき対象ではない。男だって投票所において、どこまで選択肢があったことか。

うちの親は郵便で投票用紙が届くと、大切な書類をしまっておく金庫なんてないし、どこかにしまい込んで場所を忘れると困ると思ってのことだろうが、今なお実家にある、私よりも背の高い本棚のガラス戸の中に立てかけていた。背景が深緑の明治文学全集だし、玄関入ってすぐの場所だったので目立つ。


子供には、どの政党に投票したのかは、決して言わなかった。母は「ようやく決まった」としか言わなかった。子供の口から近所に漏れては困ると考えていたのかもしれない。当時は、大きな政党がお年寄りを集めて弁当付きの老人会を開催し、最後に投票用紙の書き方を、実名入りで指導していた時代である。

この国では特に、投票率が下がると組織票を持つ政党に有利になるので、かつては三連休のど真ん中に国政選挙の投票日が設定されていたこともあるのを覚えている。期日前の事前投票ができるようになったのは今世紀に入ってからだ。私の場合、海外に駐在していた合計8年間のうち、最後の一年を除く7年間は、在外投票の権利がなかった。かくのごとく、権利の有難さは、それがない時代や環境を知らないと、なかなか実感がわかないものです。


しばらく前に、「若者よ、選挙に行くな」という映像がネットに出て、賛否両論あった。世代間対立を煽るなという意見も出たが、一般論としてはともかく、現実に若者の投票率は総じて低くて、ただでさえ人口が少ないのに、ますます議席に偏りができるおそれがあることを、なぜ言わない。組織票側の人物の発言だろう。また、あの出演者のセリフや表情から、逆説を主張していることが分からない人もいるらしく、「このジジババが」という感じの書き込みもある。

あれは、アメリカで造られた「Don’t Vote」の真似っこなのだが、映画好きの私としては、第二段の「Don’t Vote 2」が気に入っている。今でも動画サイトなどで観られるはずです。一例。
https://www.youtube.com/watch?v=Bo_iExUsQWE


いきなりウィル・スミスが元気である。途中、「親父に教わった。投票しないなら、黙っていろ」と語っている。ハリソン・フォードが本気で怒っている。ハン・ソロの顔で、笑ったまま怒るという至芸は健在だ。ジュリア・ロバーツキャメロン・ディアスも、怒らせると良い女だ。

言うことを聞かないトム・クルーズに、「カット」と叫んでいるのは、そのあと出てきて台本を見せながら、「これはサイコ・ハラスメントなんだ」と説明しているスティーブン・スピルバーグだろう。この演出も気が利いている。トム・クルーズスピルバーグ監督は、ディスレクシアで脚本を読むのが苦手なのだ。大真面目なディカプリオという珍しいものも観ることができる。


昔から参院選は、この季節。地域にも年にもよるが、梅雨が明けていなければ外出が億劫だし、梅雨明け後なら、一年で最も行楽を楽しめる最高の季節、遊びに行くから居ない。その参院選で、しくじると政権が吹っ飛んだことが過去に何回かある。三年間、議席配分が固定してしまうから大失態なのだ。

昨今の年代別の最大与党の支持理由は、四十代あたりを境にして、若手は「経済政策」、中高年は「社会保障・福祉」が首位で、それぞれ、二位と一位が逆順になっているから、全世代を通じて、お金の問題だ。それはそれで深刻だから、どうこう言わないが、いずれも長期的な政策を必要とする。


そうなると、「実績」や「安心感」がある(ようにみえる)党を選ぶのが人情というものだろう。私は底意地が悪いので、ここしばらく、経済政策と社会保障、スローガンでいうと「アベノミクス」と「100年安心」の不安材料となるような統計問題や報告書が、よりによって、政府内から出てきているのが不審である。

一見、野党に有利だが、不安をあおればあおるほど、無党派の票はどちらに流れるだろうか。一部大手のマスコミがよく知っているようで、これらの件については、珍しく盛んに国家権力の批判を繰り返す。これに対し、日本国民の隠し玉は、第一に若い世代だ。ご検討と果断な行動を願う。




(おわり)





トンビの滑空  (2019年7月14日、ペリーの黒船が来た日の東京湾で撮影)




   「山守さん、弾ぁまだ残っとるがよ」  - 菅原文太










































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