一日一条  (第166回)

 
 本日のタイトルは文庫本の副題で、その本題は「読むための日本国憲法」。東京新聞政治部編東京新聞は、中国新聞の東京支社が発行する日刊の新聞で、他の地方の方々が読めるかどうか知らないのだが、ネットにもニュースを流しているので是非いちどご覧ください。利害関係はないので、売り込みではないです。

 この新聞の特徴はやや週刊誌的な編集方針があるようで、特集や続き物が多い。週刊誌には失礼だが、内容はこちらのほうが真面目で優れている。本当の話、最近の週刊誌はいったい、どうしたのだ。大相撲と皇室関係の悪口ばかりではないか。


 さて、憲法だった。この本の発刊は2014年4月であり、あきらかに自民党の改正草案(2012年)が出たのを受けて、企画されたものだ。草案の引用が、所々にある。文章も内容も、高校生の学力があれば充分、読める。一日一条なら、負担にならない程度の分量。

 あまりゴリゴリの法律論は無く、特徴としては、各条項の制定の経緯、諸外国との比較、明治憲法との相違点、また、下の欄外に専門用語などの解説もあって、便利でございます。


 各論の話題を二つ。各条項の最後に、一行のコメントがついている。いくつか挙げよう。カッコ内は、私の補足です。
【前文】  人類普遍の原理を謳うが、歴史や伝統に関する記述はない 
(これは自民党の改正草案の前文と比較してください)

【第一条】 天皇は「行政の長」ではないが、国際的には「元首」   
(かつて、戦時行政に悪用された元首制度があった)

【第二条】 憲法では、天皇の性別については規定していない     
皇室典範には、男系の男子とある)


 第2条に関連して、第24条に家庭生活における事柄とはいえ、両性の平等が定められているから、皇室典範はけっこう危ない橋を渡っているのだ。なお、この第24条は、GHQの女性職員が頑張って入れた条文として名高い。ベアテ・シロタ・ゴードン。ミドル・ネームが示すとおり、日本人の血も引き、日本滞在の経歴がある。

 もう一つ、GHQの腕力で入った条文がある(いずれも、押し付けられたと思っている人たちは、手を加えようとするだろう)。こちらの方は、この本を読むまで、そういう事情があったとは知らなかった。

 うんと後ろの方にあるので、一日一条だと3か月ぐらいかかる。第99条、例の最高法規の章にある基本的人権の条文。同書の指摘どおりで、なるほど、文体が憲法前文と似ており、感情がこもっている。


 最後に、この本を読んでよかったなと思ったのは、かつて、このブログで「憲法は第25条だ」と書いた覚えのある「生存権」のエピソードだ。初学者の私には意外だったが、GHQの原案にこの条項はなかったそうで、戦後の国会において追加された。しっかり立法府で議論しているではないか。見習ってほしい。

 (生存権等)
第二十五条 全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
二 国は、国民生活のあらゆる側面において、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 私自身、なかなか想像するのは難しいのだが、このころの日本がどういう有様だったか、また、その前の数年間、どれほどの辛苦に堪えてきたか。先日、餓死者の統計をみた。終戦後の何年間か、大変な数だ。統計漏れもあるだろうし。そして気になるのは、最近、なぜか増え始めている。



(おわり)




上野公園も雪の中  (2018年1月22日撮影)



















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