憲法は法律なのか  (第2回)

 素朴な好奇心であります。憲法も他の法律も、法であることに異論はありません。それなのに、このような疑問を抱いたのは、前回引用した平成24年自民党の改正草案を斜め読みしていたときのことです。第73条に内閣の職務が規定されている。

 その中身に入る前に、前回に言い忘れたことを補足します。報道によれば、首相は本日の参院選後に、憲法を逐条で議論すると言ってみえるそうなので、この平成24年の草案も遠からず最新情報でなくなる可能性が充分あります。その都度、再検討するほかない。


 さて、第73条の第6項は、現行憲法だとこうなっている。「六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。」(後略)。再度申し上げれば、私は法律家ではないので、あくまで国語レベルでの検討です。

 「この憲法及び法律」と併記されている以上、普通に読めば憲法と法律は別物であります。そういえば英語でも、法律は「law」だが、憲法は「constitution」だ。私は素朴に、憲法というのは法律の中で一番、偉いものと信じていたのに。


 自民党の改正草案では、この第73条第6項から「憲法」が削られており、「法律」だけが残されている。意図不明。書き間違いではない。変更点を示す傍線が引いてある。また、憲法を法律に含めたのでもあるまい。

 なぜなら、すぐあとの第76条第3項では、現行憲法も改正草案も、「憲法及び法律」と明記しているからだ。この条項は「司法」の章の劈頭に置かれているもので、三権分立の根幹をなす条文の一つだ。まさか、ここで間違えたりはすまい。

 なお、現行憲法の第十章は「最高法規」という名称が付いている。憲法自身は「法規」であると自己紹介しているのだ。首相官邸のサイトには、英語版の日本国憲法がある。「最高法規」は英語でいうと、「SUPPLEMENTARY PROVISIONS」。やはり、「law」ではない。


 なぜこんなことが気になるかというと、憲法と法律は、それぞれ誰が定めるのかということを最初に押さえておきたかったからだ。法律は立法府たる国会で作る。憲法にそう書いてある。これは議論の余地が無いはずだ。

 法律は、われわれに「ああしろ、こうしろ」とか、「これをやっては駄目」とか、社会の規律を維持していくため、憲法で保障されている国民の自由や権利を、部分的に制限するためにあるというのが私の理解。仕事柄よく読む労働基準法は、文末が「ならない」のオンパレードで、中学校の校則のようだ。

 その典型は、刑法が定める懲役・禁固・罰金などだろう。悪いことをすれば、移動の自由も私有財産の権利も、所定の割合で削られてしまう。だからこそ、この合法的な人権侵害とでもいうべき法律は、選挙民が自ら選んだ代表によってのみ決められる。8割は内閣が発案するらしいが(つまり、大半はお役人がドラフトを書いている)。


 では、憲法はどうか。これは前文において明確にされている。現行憲法の前文は、読む気が起きないほど長くて複雑だが、第一文の最初と最後の言葉だけ抜き出すと、「日本国民は、この憲法を確定する。」と書いてある。戦後の当時に、誰が作ったのかという議論はしない。現時点で、そうなのだ。過去形ではない。

 これが自民党の改正草案だと、何故か前文の一番最後に「日本国民は(中略)、この憲法を制定する」となっている。前回の「政策BANK」もそうだったが、この党は最後に大切なものを置くのがお好きらしい。

 
 改正条項は、周知のようにもう少し具体的に書いてある。まずは、プロ集団たる国会が改正案を作り、決議して、最後に国民投票にかける。法律の改正には、国民投票が不可欠ではない。実績は一つもないはずだ。そして、憲法改正に限り、日本国民が定めた以上、国民投票が必須の手続きとなります。

 なぜ、法律と異なり、憲法は日本国民が定めるのか。憲法は、例えばイギリスにおいて、憲法という名の単独の法規はないと学校で習った。最古参のマグナ・カルタほか、幾つかの法令の集合体を「Constitution」と呼ぶらしい。

 我が国には、聖徳太子が御自ら定めたと伝えられる「十七条憲法」があって、歴史は古い。どうやら、憲法の中身や形態は、かなり融通がきくらしい。そして現代では、立法府だけではなく、国民が参加して最終決定するというのも、おそらくいろんな国で採用されていることだろう。主権在民とは、そういうことを指すと考えておこう。


 では、最後に憲法の存在意義とは何か。憲法は国家権力・統治者が暴走しないよう「縛る」ためにあるという説があり、これに対する反論もあるらしい。暴走とは物騒だが、ある程度の制限をかけているのは間違いあるまい。現行の憲法でいえば、三権分立も改正条項も戦争放棄政教分離も、そういうことだろう。だから、これらに対する改正案は、特に注意する必要がある。

 念のため、これがひどい勘違いでないことを確認するため、連立与党の公明党のサイトを拝見する。本日時点で、「よくあるご質問」の中に、政教分離に関連してこう書いてある。憲法が規制対象としているのは、「国家権力」の側です。



(この稿おわり)






これも旅の宿にて  (2016年6月3日撮影)






































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